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| 住民訴訟控訴審陳述書 |

【3月10日桃の花見会現地視察にて】
●2002年2月28日 控訴人 島野房巳
| 1.原判決は、極めて形式的な審理しか行わず、その結果、被告の主張を鵜呑みに する一方的・偏向的な判断を下したものであり、控訴人らは到底、これを受け入れ るわけにいきません。 原審において原告らは、本件空港整備事業は本来必要性が乏しいものであるほ か、旅客需要予測は現実性が希薄であること、貴重な自然が大規模且つ決定的に 破壊されること、安全性の確保に絶大な危惧があること、莫大な事業費が静岡県 財政を一層の破局に陥れること、立地選定にあたり住民参加を無視したばかりか 県議会にも諮っていないこと、事業計画が極めて粗雑であること、県による全用地 取得の可能性がないこと、空港設置許可の申請及び許可処分が違法なものである こと等、本件空港建設が著しく不合理且つ非民主的なものであって、被告らは行政 事務の誠実な遂行に努めるべき責務に違反して不正に事業を推進していることを 主張しました。 これに対し原審裁判所は、原告らが指摘する事業推進過程の非民主性、環境影 響評価の不確実性、需要予測の非現実性、事業費膨張の可能性、県財政破綻の 危険性、用地取得の不確実性と設置許可処分の違法性等々を示す諸事実につい て、悉く被告の主張を鵜呑みにして怠慢にも独自の判断を放棄し、形式論理を弄ん で皮相的且つ一方的な結論を示しました。中でも、設置許可要件を充たさないこと が明らかな許可申請を強引に受理させて違法な許可処分を引き出した被告らが、 同時に、この許可処分を根拠とする財務会計行為の主体であるという、先行行為 と後行行為の密接不可分で明白な一体性については、原審裁判所は原告らのこ の主張を、まったく理解しようともしていないと言うべきであります。 このように浅薄極まる審理と判決は、まるで「お上のすることには文句を言うな」 と言わんばかりに、行政側の主張に加担しひたすら行政に追随するものでありま す。これは、今日、公共事業のあり方を中心として公行政の独善性と非効率性に 対する批判がこの上なく高まっている全国的な機運も賑中になく、市民の健全な 常識とかけ離れた、時代錯誤の産物そのものと言わなければなりません。 2.控訴審裁判所は、本件事業の非民主性、計画の粗雑性及び無意義性並びに 空港設置許可申請及び許可処分の違法性について、原審終結後に生起した状 況と諸事実を含めて、慎重にして透徹した審理を行うべきであります。 すなわち、原審終結後において、 (1)事業の非民主性については、2001年7月の静岡県知事選挙に際してマス コミ各社が実施した県民世論調査において、いずれも、本件空港建設を支持し ない意見が支持意見の約2倍という、圧倒的に拒否的な結果が示されました。 また、これに先立っては、本件空港建設の是非を問う住民投票の実施を求める 直接請求が、法定成立要件を遥かに越える県民有権者の約1割、27万人の有 効署名を集めて成立しました。 このような状況を反映して、被控訴人石川嘉延は、空港建設は住民投票の結 果に従うと公約せざるを得ませんでした。 これらは、本件空港建設がいかに県民の意思から遊離した県民不在の非民 主的な事業であるかを、この上なく雄弁に物語るものであります。 (2) 計画の粗雑性については、被控訴人らみずからも、空港設置許可申請にあ たって用いた旅客需要予測をその後大幅に下方修正せぎるを得ませんでしたが、 「静岡空港・住民投票の会」が行った独自の需要予測はさらにそれを下回るな ど、県の修正予測も、到底、県民一般の支持するところとはなっていません。 また、空港本体部の造成工事はまだ僅かしか進んでいないにもかかわらず既 に巨額の工事費が支出されている事実から見ても、今後における事業費の大幅 な膨張は必至な状況にあります。 さらに、被控訴人石川は、「空港建設費は1年当たりにすれば150億円程度で 大したことはない」とタカをくくった感度をとっていますが、県財政は来年度予算編 成において単年度でも800億円もの莫大な財源不足に陥るなど、資金面からも 計画の粗雑さは一層明白になり、本件空港建設を主因として県財政は弥縫しよ うもない破滅的な状況にあります。 その他、被控訴人らが本件空港利用者の増大につながるとして宣伝にこれ努 める新幹線「空港駅」の開設は、ほかならぬJR東海自身がその可能性を真っ向 から否定しています。 (3) 計画の無意義性については、前述のような県民支持の決定的な低さのほか、 各種論調が挙って建設の意義を否定していること、「時のアセスメント」の見地か らも、本件空港のような事業に対する国の補助の継続は行政改革基本法制定 の趣旨に反するものであること等、建設の意義はますます失われる一方です。 さらに、被控訴人石川は空港住民投票の代替措置と称して「空港専門家委員 会」を設置し、建設推進についていわゆるお墨付きを得ましたが、同委員会はお よそ、同人が強弁するような「公正中立の第三者機関」ではなく、また、何らの 専門性も備えていなくて、単なる被控訴人らの御用機関に過ぎません。このよう に鈷息な意図が見え透いた機関を設置して、今さらのように、本来は空港基本 計画の策定にあたって十分に実施されているべき「重要事項の精査・検証」を 行って宣伝しなければならないところにも、県民からほとんど見放されている本 件空港の実態がよく表われています。 (4) 空港設置許可の申請及び許可処分の違法性については、空港用地の取得 率は別件訴訟一平成13年(行コ)第33号・東京高等裁判所ーにおいて控訴 人らが立証した通り、設置許可後既に5年半が経過した今日なお、空港本体 部において90%程度、買収対象たる空港事業区域全体ではせいぜい80% にとどまっています。これらは被控訴人らが公表している数字を大きく下回っ ており、被控訴人らはかつての「大本営発表」よろしく、誇大な用地取得率をね つ造していることが明らかであります。原審において被告側・野俣証人が述べ た「平成13年3月末までの全用地取得」という見通しは、とっくに雲散霧消し てしまいました。 このような事実は、被控訴人石川が設置許可権者・旧運輸大臣との間で、 本件空港設置許可が航空法に規定する用地取得の確実性に係る要件(39 条1項5号)を充足していない事実を糊塗するため協議して作成した、「県の 責任で全用地を取得する」との『確約書』が、まったく無意味な空手形に過ぎ なかった虚妄性をまぎまぎと浮き彫りにしています。 また、原判決が援用する土地収用法適用の可能性については、前述のよ うな本件空港建設に対する県民の支持率の歴然たる乏しさを見るだけでも、 事業認定に係る「公益上の必要」要件(土地収用法20条4号)を具備してい ないばかりでなく、被控訴人石川が建設の是非を住民投票に問うことに賛成 せぎるを得ない状態にあることや、計画の粗雑さがますます明らかになって いる状況を見ても、被控訴人らが「事業遂行の充分な意思と態力を有する」 との要件(同2号)を充足しているとは到底考えられません。 さらに、27万人もの直接請求有効署名を集めた「空港住民投票の会」が最 近、「空港建設中止の会」に改組して全県下にわたる活動を再開したような 事実を見ても、本件空港建設に対する県民一般の批判と反感はさらに強くな る一方と予想され、仮に被控訴人らが土地収用を検討してみても、現実的に 収用法発動の余地はあり得ません。 このように、原判決が用地取得の確実性につき被告らの主張を鵜呑みにし たことはまったく誤りであります。被控訴人石川による設置許可申請とこれに 対する許可処分の違法性は、今や覆うべくもありません。そして、被控訴人ら の本件空港建設に係る財務会計行為はすべて、この違法な許可申請と許可 処分に基づくものであることは、常識的に考えていささかの疑いもありません。 もし裁判所が、原判決の一方的に偏向した皮相的にして形式的な判断を容 認した上、さらに、これら原審終結後の新しい諸事実を考慮することもなく判 断するならば、裁判所は、原判決にさらに輪をかけて二重三重の誤りを犯す ことになります。 3. 裁判所が透徹した審理を行い原判決の誤りを是正するためには、設置許 可申請及び許可処分を巡る事情並びにこれら新しい諸事実について究明する ことが不可欠なはずであります。それには是非、控訴人らが申請した証人の証 言を得なければならなかったと考えます。 石川嘉延証人については、いやがる運輸省に対して「私を政治的に殺す気 か」とまで言って強引に設置許可申請の受理を迫った事実や『確約書』作成の 経緯、運輸省との間で土地収用について検討した事実の有無、許可申請・許 可処分・財務会計行為が一連のものであることに関する当事者としての認識、 「手続きに重大な欠格・不足があった」とする認識の内容、県財政危機、県民 の事業に対する低支持率、新幹線「空港駅」の実現性、各種の批判的論調、 住民投票実施の公約違反等に関する認識、「空港専門家委員会」設置の意図、 用地の確実な取得に関する見通し等を、また今戸克典証人については、旅客 需要予測の正確性、空港本体部工事の進捗状況、事業費膨張の危険性に関 する認識、「空港専門家委員会」を設置した経緯と委員らの人選基準や運営 状況等を、徹底的に追及する必要があります。 しかるに裁判所は、まず、原審において争点とされたものがすべて争点であ るとは考えないとの方針を示しました。これは、原判決が皮相的、形式的な判 断で被告の主張を悉く鵜呑みにした偏向的で一方的なものである不当性を、 完全に無視するものであります。 次いで裁判所は、審理の焦点を財務会計行為が先行行為の違法性とつな がるか否かに絞る方針を示しました。これは、原判決が全面的に不当なもの であることに日をつぶるとともに、本件訴訟の争点を意図的に矮小化するもの にほかなりません。 控訴人らは、このような訴訟指揮では本件訴訟は明らかに審理不尽に陥り、 正確な事実の究明と、被控訴人らの行為の違法性に関する正しい判断はほと んど不可能と考えます。控訴人らは、少なくとも両証人の申請却下は承服す ることができません。 (4) 伝え聞くところによれば、裁判所には行政事件訴訟において政策問題に 係る判断は回避する方針があるかのようですが、控訴人らは、このような方針 のもとに本件訴訟が片付けられてしまうことには由々しい問題があると考えま す。 三権分立のもと、行政に対する司法の無制限な介入が許されないことは言 うまでもありません。しかし、行政における政策立案、行政施策あるいは行政 運営が著しく民主性、効率性、合理性、公正確保等行政の基本原則に背くと きは、司法は法と証拠に基づき敢然として不正の是正に取り組まなければな りません。 多くの場合、こうした事実があってもその是正は立法機関の問題であり、選 挙がその機会を提供しているとされます。しかし、立法機関が正常に機能せ ず、また選挙を待つ余裕はない場合は多々生じます。そうした場合、行政の異 常を是正し住民の被害を救済する機態は最終的に、司法を措いてほかにあ りません。 被控訴人らによる本件空港整備事業に係る施策とその堆進は、たとえば被 控訴人石川がみずから認める「手続きの重大な欠格・不足」、強引極まる設 置許可申請、用地取得の見通しがない見切り発車的着工、用地取得の完全 な行き詰まり、県材政の壊滅的状況等の露頭を見るだけでも明らかな通り、 自治体における民主的にして能率的な行政確保の基本原理(地方自治法1 条)、事務の誠実な管理と執行の責務(同138条の2)並びに予算編成にお ける合理的な基準の遵守(地方財政法3条1項)、必要且つ最少の限度の経 費支出(同4条1項)及び財政運営における年度間の健全性確保の考慮(同 4条の2)の諸原則に極端なまでに背反し、その結果として県民の意思からま ったく遊離しています。また 静岡県議会は不当にも、理由にもならない理由 をもって空港住民投票条例案を葬り去りました。 このような場合においてすら、裁判所が争点を矮小化したり、政菜問題とか 政治的判断の問題としてみずからの判断を回避することがあれば、それは、 市民社会における司法の任務を放棄するにひとしいものであります。そのよ うな裁判所は、民主社会における市民の名において断罪されても仕方がない と言わなければなりません。 被控訴人石川は最近、「開港後赤字になっても、空港はつくる」と広言してい ます。この一言に、本件空港の不合理性は言うまでもなく、被控訴人らの不 誠実と思いあがりが集約されている思いがします。公共放送たるNHKテレビ・ 静岡が、これも最近、本件空港の問題点を、県民合意の不成立、用地取得の 行き詰まり及び県材政の危機の三つにまとめて放送しました。用地取得の膠 着状態を打開して全用地を取得できる見通しも、県材政が未曽有の深刻な破 局から立ち直る展望も全然ないまま、県民が支持しない本件空港建設に狂奔 し強行し続ける被控訴人らの行為は、行政上の基本原理を侵害する不正を通 り越して、市民を敵とする犯罪的なものと言うべきであります。 裁判所は須く、司法本来の使命に忠実であるとともに健全な市民社会の良 識に基づき、賢明にして勇気ある判断をされますように、切に希うものでありま す。 |